6. 重粒子線治療の体験報告(2002/02〜)
| 入院の経費について 入院までの診察および入院してから重粒子線照射の前日までの費用は通常の健康保険で支払うことができる。臨床試験の期間は,重粒子線照射日から退院までの経費は食費まで含めてすべて無料であった。しかし,現在は高度先進医療として認定されており,有料である。 参考 2003年(平成15年)10月1日に,厚生労働相の諮問期間「中央社会保険医療協議会」(中医協)は独立行政法人放射線医学総合研究所重粒子医科学センター病院に対し,平成6年6月から開始されていた重粒子線によるがん治療を医療費の一部が医療保険から給付される高度先進治療として承認した。実施は同年11月1日よりである。 高度先進医療の段階では、当該医療技術に係る費用は全額患者が負担することになる。放医研における重粒子線がん治療の費用負担は、対象となるがんの種類に拘わらず、一連の重粒子線照射について一括して314万円である。なお、これ以外の診断・検査・投薬・入院料等の費用は、健康保険適用となる。 高度先進医療の内容(放医研) 総工費(昭和62年より平成5年までのHIMACの総工費326億円,平成5年より平成8年までの病院の建設総工費118億円)の444億円の償却費は自己負担には含まれていない。 重粒子線治療については,ドイツではすでに臨床試験が開始され,平行して病院設置型の治療施設を建設中,日本では兵庫県でも治療が実施されている(リンク)。計画中のものには,イタリア,中国,オーストリア,スロバキアなどがある。 リンク 世界各地の粒子線治療の研究・開発の様子 病院の各施設その他 放医研内の各施設 広い敷地の中に,HIMAC(ハイマック)を含めてたくさんの施設があり,正門を入ってから敷地内を歩いていくと一番奥に病院がある(下の写真は1997年のものなので建設中となっている)。
患者の病室(→病室の写真) 患者病室は4階が女性患者用,5階が男性患者用である。床は病室も含めてすべてじゅうたん張りなので,人の歩く音はほとんど気にならない。大部屋は4名の使用で,一人当たりのスペースは約6平米程度である。個人が使用する照明はアームライトを含めて天井,壁際の3箇所あり,そばにある移動式の机の広さも十分である。書類を広げてノートパソコンなどの使用も可能である。脇にある棚や引き出しつきの台もけっこう広い。 洗面所も明るくて広いし,そのそばに各人用のロッカーもある。また,病室ごとにトイレがついており,ウォッシュレットつきで,車椅子が入れる広さになっている。 個室もあり,一泊10,000円である。個室はテレビの音を出してもよく(大部屋はイヤホーン使用),電話,シャワー室などが付属している。 担当医について 担当医は,私の場合,森田新六,辻比呂志,柳剛の3先生であった。森田先生は入・退院の際の相談やインフォームド・コンセントでお世話になった。また,辻,柳の両先生は一日のうち少なくとも2回は巡回されて,どんな質問にも親切に答えてくれた。 婦長さん以下,看護婦・看護士の皆さんも明るく親切でやさしかつた。 照射について 照射治療室(→照射のメカニズムとA室,C室の写真) 重粒子線の照射は,病院の隣の建物である重粒子線棟の地下二階で行われる。ここまでは,パジャマを着たまま地下道を歩いていくことができる。 重粒子線の照射治療室は,A室,B室,C室の3室である。A室は身体の前方照射のみ,B室は前方照射のほかに左または右からの照射,C室は左または右からの照射のみを行う。私の場合は,A室とC室の両方を使用した。 照射までの準備(→照射に必要な用具の写真) 照射時刻の連絡は看護婦さんから各個人に行われる。メッシュのパンツに履き替え,排尿してから重粒子線棟の地下二階にある待合室に向かう。 前方照射の場合は,導尿のあと食塩水100ccを膀胱に注入してからすぐに照射室に入る。 左または右からの照射の場合は,排尿後約30〜40分位たってから入室する。 入室後は照射用ベッドの上に仰向けに横たわる。この後,次の順序で照射が行なわれる。照射中は室内に軽音楽が流れてくるので和やかな気分になる。近くの装置の雑音さえ気にしない人ならば昼寝しているうちに照射が終了する。 副作用を少なくするための照射の配慮 同じ向きからの照射による副作用を少なくするために,総計20回の照射のうち,前半10回の照射では,上方,左,右のそれぞれからの照射日は連続しない。後半の10回は左,右からの照射の繰り返しであるが,はじめの10回と少し違い,多葉コリメーターを調整して直腸に照射される部分をカットし,直腸には照射しないようにする。このため,直腸に対する副作用,たとえば便秘,下痢などは私の場合は全くなかった。 また,あとで説明するボーラスは,患部組織内の各細部に照射される吸収線量を調整するためのものである。
参考 多葉コリメーターについて 照射される患部の状態に合わせて照射面の形状を決めるもの:沢山の細い金属板がそれぞれ左右,または上下から中央に向かって移動し,患部にあわせた形状の照射口をつくる用具。 固定具の形状は患部や病気の種類により千差万別で完全に個人専用である。 テンプレートやボーラスは前方照射,左方照射,右方照射の3の方法に対してそれぞれ別々に作成された。 照射室に入ってから照射終了までの時間は大体20〜30分である。 照射終了後は検査用尿カップに排尿してもとの病室に戻る。 照射技師の方々は皆さん礼儀正しく親切で,照射終了後の質問や写真撮影にも丁寧に応じてくれた。深く感謝したい。 重粒子線照射の副作用について 体重その他の変化 毎週木曜日に体重,血圧測定がある。体重はパジャマを着たままであるが72.5kg前後でほとんど変化はなかった。食事は,食欲不振になることなく毎回すべてを食べた。自己記録として1〜10の記録をして,看護婦が毎日書き写しに来る。私はほとんどすべて10を記録した。 血圧降下剤として,毎日一ずつノルバスク(2.5mg)を飲んでいたが,食事が薄味のせいか,自宅にいたときよりも血圧の平均値は下がり,高いほうが120〜130程度,低いほうが70〜80程度であった。途中採血による内臓関係の健康診断の結果はすべて異常なしであった。 排尿数・蓄尿量の変化 照射による副作用は,人によってさまざまである。重粒子線治療に伴う副作用はというと,頻尿が一時的にひどくなったり,軽い尿道炎を起こす程度で済むことが多いという。 私の場合は,照射5回目後ぐらいから夜間のトイレ回数が増加し,従来の2〜3回から4〜5回に増加し,蓄尿量は従来の150cc程度から100cc程度に減少し,照射10回目以降はさらに減少し,水分を多く取りすぎたときには,その時によって100cc以下の蓄尿量でもトイレに駆け込まないと失禁が起こる状態になった。 照射13回目以降の排尿回数は,下記の薬の影響のあった日を除いて,夜中の12時から24時間の間におよそ20回ぐらいで, 一回の蓄尿量は50〜60ccであった。 膀胱に食塩水を注入した時の心配 前立腺の重粒子線治療でもっともつらいのが前方から照射するときの準備として尿道から細い管を挿入し,膀胱に100ccの食塩水を注入するときである。医師により上手な人とそうでない人があり,管の挿入時の痛さにかなりの差がある。医師どうしが互いに挿入しあって,痛くないような挿入のコツを実習しあうのもよいだろう。 待合室でよく話をしたエドワードさんはこの操作をトンネル工事と呼んでいた。うまい表現である。また,いろいろとお話をしていただいた樫原さんもかなり痛いときがあったという(エドワード氏,樫原氏と一緒に撮影した写真[02/02/19撮影:樫原氏より寄贈])。私の場合は,痛さといっても一瞬の間の出来事なので我慢はできたが,思わず声を出したこともあった。また,照射終了後の排尿のときに痛みを感じたこともあった。 第3回目(照射7回目)の注入までは,治療室に入ってから照射が終了するまで失禁の心配もなく我慢ができた。しかし,第4回目(照射10回目)の注入のときには,すでに限界蓄尿量が100cc程度であったので,照射準備中に蓄尿量が増加し,ベッドの上で失禁直前の状態であった。終了までの間,頭の中で軍歌を唄いつづけてなんとか持ちこたえたが,採尿室に入って採尿カップを用意するや否やたちまち噴出したが,ぎりぎりのセーフであった。 頻尿止めの薬 頻尿止めの薬を貰うこともできるが,人によって効いたり効かなかったり,かえって逆効果になることもある。私の場合,最初,ロキソニンという消炎作用のある薬を2〜3日飲んでみたがあまり効果がなかったので,バップフォーという頻尿止めの薬に取り替えた。 ところが,照射13回を終えた2/8日に,バップフォーを昼と夜の食後に2回(一回一錠)飲んでみたところ,夜中のトイレ回数に異変が起こった。なんと,15〜20分おきに尿意が起こりそのままでいると失禁が起こるので,急遽,尿瓶を枕元において備えた。夜中の12時から明け方の6時までの間に計17回の排尿に見舞われた。 2/8の日は外泊で電車で帰ることもあって,途中のトイレの回数を減らすために,朝と昼の水分をなるべく採らないようにしていたので,家に帰ってからは,普段より多めに水分を採るように心がけた。それにしても,夜中に17回とは多すぎるので,薬のせいではないかと疑った。尿瓶にとった総尿量は10回で500cc程度であったから,一回の排尿量は50cc程度である。しかも,一回の排尿のときに出が悪く何度か間をおいて用を足すようになったので,翌日はバップフォーを飲むのを止めた。そのせいか,その翌日の夜中のトイレ回数は5回に減少した。(下記の蓄尿量の変化参照) 他の副作用 私の場合には,頻尿以外に目立った副作用はなかった。入院患者の中には,照射のない日や空き時間に近所に散歩に出かける人もいる。私は,外泊で家に帰る途中に新宿で降りてヨドバシカメラに立ち寄り買い物をしたこともあった。外科手術では考えられないことである。 照射期間中に患部の痛みはなかった。また,重粒子線治療では脊髄を照射しないように炭素イオンのエネルギーが調整されているので,白血球の減少などは起こらない。途中の血液検査では何の異常も認められなかった。入院前に心配した膀胱炎,尿道炎による痛み,直腸のダメージによる便秘や下痢などは全くなかった。 主治医の話によると,頻尿の副作用も退院後一ヶ月以内でおさまる人が多いという。 照射後続けていたリュープリン注射については後に思いがけない副作用を体験することになった。 治療の効果 前立腺治療の場合はステージA2〜Cの患者だけが治療の対象となっている。これまでのデータによるとステージA2〜B2の場合は重粒子線照射だけによって完治しているという。今までの外科手術による完治を対象にしていた病気がまったく手術を必要としないで治るというのは驚くべきことである。ステージCの場合はホルモン療法(私の場合は毎日飲む抗男性ホルモン剤カソディックスと月一回の皮下注射リュープリン)と平行させて重粒子線治療を行えばやはり完治する(5年間の経過観察で再燃がない)という。他の病気で死なない限り5年後が楽しみである。 参考 重粒子線による前立腺がんの治療成績 2004年の11月20日に行われた「重粒子線がん治療10周年記念・公開市民講座」 のパンフレットの講演者の辻比呂志先生(放医研)は概要次のように報告している。
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1.前立腺がんの発見までの経過・男性性器の説明図へ
2.前立腺がんのステージの告知・骨シンチグラフィやCTの写真へ
3.都多摩老人医療センターでの治療の始まり.
4.重粒子医科学センター病院での治療とは?
5.重粒子医科学センター病院での治療準備
7.重粒子線治療終了後の経過(リュープリン注射の副作用を含む)
8. 重粒子線照射後約2年以降の経過(2004/02〜)